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日本人の、というより人類の可能性を切り開いた一年だろう。
エンゼルスの大谷翔平が投打の二刀流で9勝、46本塁打の好成績を残して米大リーグ4年目の今季を終えた。
打者としては終盤まで本塁打王争いを演じ、最終戦ではトップに2本差と迫る46号を放って打点を100とした。
投球回、奪三振、安打、打点、得点の投打5部門で3桁の数字を記録したのは史上初だ。1918年のベーブ・ルース以来となる「2桁勝利、2桁本塁打」にはわずかに届かなかったが、投打で出場した球宴を含め今季の活躍は現代野球の金字塔と言っていい。
2日付のニューヨーク・ポスト紙が「彼は全スポーツを通じてのMVPだ。今年は今世紀のMVPシーズンだ」と賛辞一色のコラムを掲載したのもうなずける。
野球に明るくなくても大谷の打席は気になる、という人は多いはずだ。チームの勝敗ではなく、大谷の一挙一動が話題の的となった点でも異例のシーズンだった。
ファンに求められれば笑顔でサインに応じ、打席に向かえば主審に会釈し、ベンチに戻ればごみを拾う。何げない行為が賛美されたのは、選手として人として、ファンに愛されている証しだろう。
20個の敬遠四球も勲章と言っていい。チームの主力打者は故障で相次ぎ離脱したが、大谷の欠場は4試合にすぎない。終盤は相手チームのマークが集中する中での孤軍奮闘だった。年間を通しての活躍に加え、日本の長距離打者として米国で勝負できると証明した点でもその価値は計り知れない。
大谷は「貢献できる頻度が高いということは選手としてもやりがいがある。楽しい一年だった」と振り返り、「まだまだ上にいけると思っている」とも述べた。
ルースの時代とは異なり、分業制が確立した中での二刀流は前例がない。大谷の踏み出す一歩が、野球界の新たな歴史になる。エンゼルスのマドン監督は「今季の彼の活躍を再現できるのは彼しかいない」と語った。あえて、投打両方でのタイトル獲得という一段上の期待をかけたい。
フリーエージェント(FA)となる2023年のシーズン後を見据え、年俸50億円超の複数年契約も取り沙汰されている。大型契約を含め、大谷には誰も見たことがない世界を見せ続けてほしい。
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2021年10月6日付産経新聞【主張】を転載しています
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